仮想通貨は雰囲気でやっている医者の日常

医者の仮想通貨(@BJ_TRON)のアカウントで答えられなかった健康相談の話とか。

個人日記

結局母に頼まれておばに会いに行ってきた

 

数年ぶりに会ったおばはかなり表情が暗い
こんなことになるなんて
をひたすら繰り返す彼女に何て切り出すべきなのか?
いつもの診察よりも私は緊張していた

 

 

おばはクリスチャン
ベッドの枕元には小さなマリアとイエスの絵と
十字架とバラのフラワーアレンジメントが飾られていた

 

 

取り敢えず、色々話を最初は聴いていた
おばは料理の本を出してきた
料理でがんが治る」と帯には派手な文句

 

 

こういう本を見て治療を中断してしまう人が
何人もいたことを思い出すが大体悪化して帰ってくる

 

 

「こういう本ばっかり読んじゃうのよ」

 

 

おばはそう言いつつキノコの粉末の話や
あの人の旦那さんは抗がん剤をやめたお陰で
今も三年元気に生きてるらしいという話をする

 

 

私はひたすら聞くしか出来ない
患者さんならデータ見ながら色々言えたんだろうか


民間療法に関して私は否定しない
ただスタンダードな治療は並行して受けて欲しい
私は医者だし、プロトコル通り
つまり決められた量を決められたように投与する意味は
今までの臨床により積み上げられてきた結果決まっている
確率論で行けば一番高いところを狙いたい気持ちになるんだ

 

 

「あなたががんになったら抗がん剤受ける?」
「受けます」
「でもあなたは今がんじゃないからそう言うんでしょう?」
ぐうの音も出ない

 

 

 

試されるような質問が続く
でもできる限り正直に答えるしか出来ない
おばは今生きるか死ぬかの選択を迫られていて
決めあぐねている

 

 

 

大雨が降っていてホールから見える景色は灰色だった
その辺に溢れている「がんはこれで治る」は
例えるなら「サマージャンボ買ったら7億円当たった」と同じだと思う
人はいつも自分に奇跡が起こるんじゃないかと思いたいものだ
それが普通だし、抗がん剤で苦しむ体験記はネットにゴロゴロ転がっている

 

 

誰だって苦しまず、奇跡が起こってがんが消えて欲しい
当たり前の願望だ

 

 

1時間半くらい話して、突然おばのテンションが変わった
何か気が利いたこと言ったかな?と思っていたけれど
途中で気付いた

 

 

私は何も良いこと言っていない
おばは自分の答えをもう持っていて私に色々ぶつけて
結局答えに確信を持って選ぶことを決断したんだと

 

 

 

いつも患者さんはそうだった
勿論おばもそうだ
その人の人生はその人が決めるべきだ

 

 

 

「ありがとう、一杯話を聞いてくれて
 忙しいのにごめんなさい」

 

おばは誰にも話せなかったんだろう

 


ありがとうは言って欲しい。私も言っていく
でもごめんなさいはなんか違うから辞めましょう
と伝えてお暇した。

 

 

 

帰りのエレベーターまでちょっと歩きながら話した
「なんか急に腑に落ちた感じでしたね?
 何かありましたか?話してスッキリした感じ?」
「あなたが色んな話してくれたでしょ?
 その中でハッとした言葉があったの」

 

 

楽園でリンゴを勧められたイブは
万能薬だと蛇にそそのかされたリンゴを食べ
それをアダムにも勧め食べさせた


そして二人は楽園を追放された
民間療法勧める人間は蛇かもしれませんよ
蛇は最初蛇に見えないでしょう

 

 

 

いつ言ったか覚えてないがひねくり出せたのは
趣味の読書だったので読書を教えてくれた
親父の助けもあったなぁと思いつつ帰路についた

 

 とっぴんぱらりのぷぅ